足関節不安定症:病態・診断¶
本ページは 病態 と 診断 を統合しています。外側側副靱帯の急性損傷(捻挫)から慢性不安定症(CAI)までを一連の連続病態として扱います。
1. 病態スペクトラム¶
外側側副靱帯損傷 → 慢性足関節不安定症(CAI)は 同一スペクトラムの連続病態 であり、二大病因が存在する。
| 病因 | 特徴 | 典型例 |
|---|---|---|
| (a) 急性外傷型 | スポーツ・段差で急激な内反強制 → 靱帯断裂 | 若年アスリート、初回捻挫 |
| (b) 加齢変性型 | 反復微細損傷・コラーゲン変性で靱帯がゆるむ | 中高年、明らかな受傷歴なしに「最近よくぐらつく」 |
どちらの病因でも、適切に治療されなければ:
flowchart LR
A[急性損傷 or 加齢変性] --> B[靱帯のゆるみ]
B --> C[反復捻挫・giving way]
C --> D[スポーツパフォーマンス低下]
C --> E[骨軟骨損傷 OLT]
D --> F[活動制限]
E --> G[変形性足関節症]
F --> G
→ 最終的に 変形性足関節症 に至るため、早期介入が重要。
2. 外側支持機構の解剖¶
| 靱帯 | 走行 | 役割 |
|---|---|---|
| 前距腓靱帯(ATFL) | 腓骨遠位前縁 → 距骨外側 | 底屈位での内反制動。最も損傷頻度が高い |
| 踵腓靱帯(CFL) | 腓骨遠位先端 → 踵骨外側 | 中間位での内反制動。距骨下関節も安定化 |
| 後距腓靱帯(PTFL) | 腓骨遠位後方 → 距骨後突起 | 背屈位での内反制動。単独損傷はまれ |
3. 病態分類(Hertel)¶
- 機械的不安定性(Mechanical Instability) — 距骨傾斜・前方引き出しの過度
- 機能的不安定性(Functional Instability) — 固有感覚・神経筋制御の障害("giving way")
- 両者は連続体として併存する
4. 急性期:重症度分類¶
| Grade | 病態 | 所見 |
|---|---|---|
| I | 微細損傷 | 軽度腫脹、荷重可能 |
| II | 部分断裂 | 中等度腫脹・皮下出血、荷重困難 |
| III | 完全断裂 | 著明腫脹、関節不安定、荷重不能 |
5. 慢性期の特徴:症状が微細¶
見逃されやすい慢性期症状
急性捻挫の派手な腫脹・痛みと違い、慢性足関節不安定症の症状は きわめて微細 で本人も病院も見逃しやすい。
- 漠然とした足首の不安感
- 平らな地面でも「ぐらっ」とすることがある
- 長く歩いた後の鈍痛
- 軽く何度も捻る(がはっきりした受傷感はない)
- スポーツでの瞬発動作・カット動作が以前より苦手
患者本人は「老化かな」「以前から少しある」と訴えず、整形外科を受診するきっかけを失いやすい。 既往の捻挫歴があり、上記症状を持つ患者には 積極的にスクリーニング すべき。
6. 疫学¶
- 急性足関節捻挫の年間発生率: 一般人口で 2.15/1,000 人年
- 急性捻挫の 約 85% が外側側副靱帯(ATFL ± CFL)損傷
- 捻挫後の 30–40% が慢性化症状を残す
- スポーツ復帰後の 再受傷率: 約 30%
7. 診断¶
7-1. 病歴聴取¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受傷歴 | 初回受傷機転、回数、最後の受傷時期 |
| 急性期は | 受傷時の音(pop)、直後の荷重可否 |
| 慢性期は | giving way の頻度、不安感、スポーツ・歩行制限 |
| スコア | CAIT ≤ 24点 で診断的、FAAM, FAOS, AOFAS Hindfoot |
| 加齢型は | 受傷歴なくとも進行する。「以前より歩きにくい」「軽い段差で躓く」 |
7-2. 身体所見¶
底屈 10–20°、脛骨を後方へ押し付け踵を前方へ引く。 健側比 +3 mm 以上、または絶対値 10 mm 以上 で陽性。
踵骨を内反させ距骨傾斜角を評価。 健側比 5° 以上の差、または 絶対 10° 以上 で陽性。
高位足関節捻挫(syndesmosis injury)の鑑別。
その他重要所見:
- 圧痛部位(ATFL、CFL、第5中足骨基部、腓骨筋腱、内側)
- 急性期の機能テストは制限あり → 受傷後 4–5 日に再評価 が推奨
- 後足部アライメント(内反、凹足)
- 腓骨筋腱の弾発音・脱臼
- 関節弛緩テスト(Beighton スコア)
7-3. Ottawa Ankle Rules(急性期 X 線撮像の適応)¶
以下のいずれかで X 線撮像を考慮:
- 外果後縁または先端の圧痛
- 内果後縁または先端の圧痛
- 第5中足骨基部の圧痛
- 舟状骨の圧痛
- 受傷直後または救急で 4歩以上歩行不能
7-4. 画像検査¶
| 検査 | 目的 |
|---|---|
| 単純X線(正面・側面・モーティス・荷重位) | 骨折除外、変形・OA評価 |
| ストレスX線(前方引き出し・内反) | 機械的不安定性の客観化 |
| MRI | 靱帯損傷の質的評価、骨軟骨損傷(OLT)・腓骨筋腱症・距骨下関節病変の検索 |
| 超音波(動的評価) | 外来での即時評価、術後経過追跡 |
| CT(荷重位 / Weight-bearing CT) | 軟部組織以外の3次元評価、後足部アライメント評価 |
7-5. 鑑別・合併損傷("Three-bucket" rule)¶
CAI患者の 約60–80% に合併病変 あり。手術前に必ずスクリーニング:
- 関節内 — 骨軟骨損傷(OLT)、滑膜炎、遊離体、前外側インピンジメント
- 関節外(内側) — 距腿後方インピンジメント、後脛骨筋腱症
- 関節外(外側) — 腓骨筋腱断裂・脱臼、腓骨筋下支帯損傷
- アライメント — 後足部内反、凹足、第1中足骨底屈
7-6. その他の鑑別¶
- 第5中足骨基部骨折(Jones / avulsion)
- 距骨骨軟骨損傷の単独病変
- 高位足関節捻挫(syndesmosis injury)
- 内側靱帯損傷(deltoid)
関連¶
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